読書漂流

面白かった本、役に立った本の読書記録・紹介です。

「出発点 1979~1996」宮崎駿 徳間書店 1996

宮崎駿の随筆や企画書、対談等を寄せ集めた本であり、『もののけ姫』(1997)を制作している頃に出版された。日本社会論や教育論、アニメーション論、手塚治虫論など、さまざまな論考を楽しむことができる。

本書に掲載されている対談や文章を読むことで、今や世界的に認められるようになった、あの壮大なアニメーションの世界がどのように構築されたのかを垣間見ることができる。

世界観を形成するにあたっては、中尾佐助(植物学者)の照葉樹林文化論や、藤森栄一(考古学者)の縄文農耕論に深く影響を受けたらしい。

『栽培植物と農耕の起源』を手にしたのは、まったくの偶然である。…(中略)…読み進むうちに、ぼくは自分の目が遥かな高みに引き上げられるのを感じた。風が吹き上きぬけていく。国家の枠も、民族の壁も、歴史の重苦しさも足元に遠ざかり、照葉樹林の森の生命のいぶきが、モチや納豆のネバネバ好きの自分に流れ込んでくる。散策するのが好きだった明治神宮の森や、縄文中期に信州では農耕があったという仮説を唱えつづけた藤森栄一への尊敬や、語り部のある母親が、くりかえし聞かせてくれた山梨の山村の日常のことどもが、すべて一本に織りなされて、自分が何者の末裔なのかをおしえてくれたのだった。ぼくに、ものの見方の出発点をこの本は与えてくれた。歴史についても、国土についても、国家についても、以前よりずっとわかるようになった。(P265)

本書を読むと宮崎駿の熱意に感染して気持ちが前向きになってくるので、ものの見方が狭くなってしまいそうな時や落ち込んだ時などに、折に触れて読み返している。